2011-01-07

米国の歩行者安全強化法の抄訳

米国で1月5日,オバマ大統領の署名によって,歩行者安全強化法(Pedestrian Safety Enhancement Act of 2010)が成立しました。この法案は,電気自動車やハイブリッド車(EV/HV)などのいわゆるQuiet Vehicle(静かな車)による歩行者の危険性に対策を講じるもので,米国運輸省(NHTSA)に対して,視覚障害者やその他歩行者に車両の通行を気付かせるための自動車の安全基準を策定するよう求めるもの。

gobtrack.usより法案が入手できるので,以下に山内による抄訳を掲載します。

※この法案は,2010年12月17日に米国下院本会議で可決された。上院ではそれ以前に可決されており,2011年1月5日に大統領の署名を経て成立したもの。本文章は,2011年1月6日現在でgovtrack.usに登録された最新版であり,両院で可決された最終議決版のテキストに基づく。

※要点としては,この法案成立によって「NHTSAが18ヶ月以内(つまり2012年6月まで)の基準策定に向けて動く」ということ,「具体的な音の要求事項等は規定されておらず,これから検討される」ことでしょうか。また,法案中の協議要求などにも視覚障害者が明記され,NFB等が依然強い影響を持っていることが伺い知れます。

※不慣れな法令英語なので,助詞の解釈など誤訳の可能性はあります。ただ,技術的なところで多くの人の参考になると思いますので公開いたします。(誤訳の指摘など頂ければ幸いです。)



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Section 1. 簡易名
    この法案は,歩行者安全強化法と呼ぶ。



Section 2. 用語

    ・alert sound: 歩行者に車両の存在,方向,位置,動きを意識させるために自動車から発せられる音
    ・cross-over speed: タイヤノイズや風切り音などのその他の要因が大きくなり,alert soundの必要性がなくなる速度
    (他の語は省略)


Section 3. 車両に装備される音の最低要求事項

    (a) 基準策定- 法案成立後18ヶ月以内に,以下のような車両安全基準の策定作業を開始すること
      (1) 視覚障害者やその他歩行者が近くを走行するEV/HVを無理なく検知できるalert soundの要求性能を定める安全基準
      (2) 新しいEV/HVには,本項による車両安全基準の要求事項を満たすalert sound を装着することを求める安全基準本項による車両安全基準では,運転者もしくは歩行者にalert soundの起動を要求せず,歩行者が近くを走行するEV/HVの走行状態を無理なく検知させることができるものを求める。自動車メーカーに対しては,各車両が車両安全基準に従う1つもしくは1セットの音を装着することを要求できる。さらに,同一の音セットを同一モデルの全ての車両に装備すること,メーカもしくはディーラ以外の第三者が音を停止,改変,変更できる機能の装備を禁止するよう要求できる。この車両安全基準は,法案成立後36ヶ月以内に交付される。

    (b) 検討事項- 規則制定に際して,以下の検討をすること

      (1) 視覚障害者やその他歩行者が近くを走行するEV/HVを無理なく検知できる音を装備すべき車両が発する最低音圧レベルを定める
      (2) 車両の走行状態を認識できるalert soundの要求性能を定める
      (3) 地域騒音への総合的な影響を検討する

    (c) 段階的導入- (a)項に従う車両安全基準は段階的施行期間を設け,公布後3年度目の9月1日からの遵守を求めること。

    (d) 協議- 必要な調査と規定の制定のための協議の際には,以下の各団体と協議すること

      (1) 環境保護調(EPA)(既存の騒音基準との一貫性について協議)
      (2) 視覚障害者団体
      (3) 自動車メーカおよびその代表団
      (4) SAE, ISO, UN/ECE/WP.29などの工業規格団体


    (e) 調査および報告- 法案成立後48ヶ月以内に,大臣は調査を完了し,(a)項の車両安全基準を従来車両(エンジン車)に適応する安全上の必要性があるかどうかを報告すること。必要がある場合,従来車両にも拡張した規定の制定を行うこと。



Section 4. 財源
    200万ドル(約1億7千万円)が用意される。