この災害に立ち向かえる音響学の知見として,避難所および仮設住宅での音の問題に関する調査を紹介します。無論,現時点(3月17日)の東北地方の避難所で必要なのは生き抜くための支援で,この話は役に立ちません。この情報は,これから避難者を受け入れる非被災地の避難所や仮設住宅提供者を対象に考えています。
注)以下の知見は,福島大学の永幡幸司准教授らによる一連の研究によるものです。本来,彼の手によって社会に紹介されるものですが,彼自身も被災者として今は家族の生活を守っています。
- 避難所での音の問題
「音のことで困ったことがある」と回答したものは,27名(39.7%)である。ただし,「お互い様だから(中略)しょうがない」「音の事で困らなかったわけではないが,状況を考えたら仕方がない」などの回答もとも少なくない。
地区別に比較すると,半数程度のものが音の事で困ったことがあると挙げている地区があるのに対して,誰も挙げていない地区もあった。前者は大きな地区からの避難者全員が1つの体育館に避難するという避難形態であり,後者は小地区ごとにとまって一部屋に避難する避難形態であった。ここからは,ふたつの事が見えてくる。一つは,避難者相互の社会関係性の維持の大切さ。そして,体育館のような大空間の音環境の粗悪さ。
また,音環境に関する不満は,他の生活環境要素(生活空間の広さ,温度,明るさ,におい,風呂,トイレ等)に関する不満と比べて,不安感,不愉快などのストレス関連項目に強い関係性があることも示されている。さらに,ストレス関連項目と音環境についての愁訴の関係から,避難所の音環境を改善することで,避難所生活において感じられる不安,不愉快,ストレスを軽減できる可能性が高いことが示されている。
- 仮設住宅における音の問題
先に紹介した2005年の調査の翌年,2006年8月に仮設住宅に住む避難者に対して行われた調査では,音の問題について45.9%の回答者が愁訴した。音の問題は,生活環境に対する設問の中で4番目の愁訴数であり,生活空間の広さや設備の問題といった仮設住宅そのものに対する愁訴と比べると愁訴者数が少ない。この傾向は,避難所における生活環境に対する愁訴の場合と同様である。
また,過去に行われた,阪神淡路大震災と雲仙火山災害の避難者調査から,このような仮設住宅における音の問題の愁訴の多寡は,単にアパートやマンションなどの居住経験といった要因による可能性が指摘されている。しかし,旧山古志村の被災者については,アパートやマンションなどの居住経験は少ないにも関わらず,音に対する愁訴率が低い。これは,旧山古志村民の仮設住宅への入居にあたっては,村での集落の機能が仮設住宅でも活用できるよう考慮した部屋割りとなっていることが影響していると考えられる。
また,過去に行われた,阪神淡路大震災と雲仙火山災害の避難者調査から,このような仮設住宅における音の問題の愁訴の多寡は,単にアパートやマンションなどの居住経験といった要因による可能性が指摘されている。しかし,旧山古志村の被災者については,アパートやマンションなどの居住経験は少ないにも関わらず,音に対する愁訴率が低い。これは,旧山古志村民の仮設住宅への入居にあたっては,村での集落の機能が仮設住宅でも活用できるよう考慮した部屋割りとなっていることが影響していると考えられる。
騒音問題の社会的性格を考慮すると,こうした住民の社会関係のあり方を考慮した部屋割りが,仮設住宅における騒音問題を一定程度緩和する役割を果たすとしても,おかしくはないだろう。故に,入居後の仮設住宅での社会関係のあり様を十分に考慮することが大変重要であることが見えてくる。
受け入れ側の設備の都合のみでなく,入居者や避難地区全体を考慮した受け入れ態勢の整備が望まれる。
[参考文献]
Koji Nagahata, Hideyuki Kanda, Tetsuhito Fukushima, Norio Suzuki, Megumi Sakamoto, Fuminori Tanba, Shin-ya Kaneko, "What impact do acoustic environment problems have on the stress suffered by evacuees at temporary shelters?,", Acoustic Science and Technology, 30(2), 110-116, (2009).
Koji Nagahata, Norio Suzuki, Megumi Sakamoto, Fuminori Tanba, Shin-ya Kaneko, Tetsuhito Fukushima, "Acoustic environmental problems at temporary shelters for victims of the Mid-Niigata Earthquake," Acoustic Science and Technology, 29(1), 99-102, (2008).
永幡幸司, 鈴木典夫, 坂本恵, 丹波史紀, 金子信也, 福島哲仁, "新潟県中越地震の避難所における音の問題について," 日本音響学会講演論文集, pp. 809-810, (2006.3).
永幡幸司, 鈴木典夫, 坂本恵, 丹波史紀, 金子信也, 神田秀幸, 福島哲仁, "震災避難所における音の問題とストレスの関係," 日本音響学会講演論文集, pp. 889-890, (2007.9).
- まとめに代えて
[参考文献]
Koji Nagahata, Hideyuki Kanda, Tetsuhito Fukushima, Norio Suzuki, Megumi Sakamoto, Fuminori Tanba, Shin-ya Kaneko, "What impact do acoustic environment problems have on the stress suffered by evacuees at temporary shelters?,", Acoustic Science and Technology, 30(2), 110-116, (2009).
Koji Nagahata, Norio Suzuki, Megumi Sakamoto, Fuminori Tanba, Shin-ya Kaneko, Tetsuhito Fukushima, "Acoustic environmental problems at temporary shelters for victims of the Mid-Niigata Earthquake," Acoustic Science and Technology, 29(1), 99-102, (2008).
永幡幸司, 鈴木典夫, 坂本恵, 丹波史紀, 金子信也, 福島哲仁, "新潟県中越地震の避難所における音の問題について," 日本音響学会講演論文集, pp. 809-810, (2006.3).
永幡幸司, 鈴木典夫, 坂本恵, 丹波史紀, 金子信也, 神田秀幸, 福島哲仁, "震災避難所における音の問題とストレスの関係," 日本音響学会講演論文集, pp. 889-890, (2007.9).
1 comment:
永幡さん自らによる紹介ページができました。
どうぞこちらをご参照ください。
http://www.sss.fukushima-u.ac.jp/~nagahata/research-j/earthquake/index.html
また,選挙運動における街宣車放送についても紹介があります。
http://www.sss.fukushima-u.ac.jp/~nagahata/research-j/election/index.html
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