第1回はこちら>>> 第1回 HV/EVが静かなことって悪いこと?
走行音が環境騒音と比べてあまりにも静かであれば,走行音を車の存在や接近を知るための情報源として使いにくくなります。これは視覚障害者にとっては「自動車の位置がわからない」「道路を横断するタイミングがわからない」などを意味することになるため,歩行時の危険性が増すことが強く危惧されているのも事実です。そのための対策が不可欠であることは議論の余地はないでしょう。
そこで,「音が小さい」ことによって生じた問題なのだから,「代わりに別の音を出そう」と考えるのは,ある意味,自然な発想の流れでです。この「接近報知音(警報音)によって視覚障害者の安全を確保しよう」という考え方は,一見すると正しいように見えます。
しかし果たして?
私の共同研究者である永幡幸司(福島大准教授)は,
- 大型車の音は普通自動車の音を消してしまう
- 真上の高速道路の音が下の大通りの音と混ざり合い横断のタイミングがわからない
- 工事等の大きな音が手がかりとなる自動車走行音をマスクしてしまう
自動車走行音が,他の音にマスクされる時に問題が発生することが,ハイブリッド車が登場する以前から,指摘されてきている
(永幡幸司, "音環境の政治的正しさをめぐって," 日本音響学会 騒音・振動研究会資料, N-2008-50, 2008)
つまり,「走行音が聞こえなくて困る」という問題はHV/EVの出現以前から存在したと指摘しています。
また,HV/EVに音を付加するとした場合,「従来の自動車と同程度の音量」で音を付加することが考えられます。(「同程度」をどのように定義するのかという大問題があるのですが,それは,次回以降で。)その場合,道路沿線の騒音環境は従来と変わらないか,付加する音によっては悪くなる可能性もあります。
騒音を大幅に低減できる技術が実用化されているにも関わらず,その性能を十分に引き出せないような政策を行うことは,道路沿線住民に我慢を強いることを意味し,政治的に正しくない
(同上)
つまり,安易な音の設置は避けるべきでしょう。
また,HV/EVとは言え,全くの無音ではありません。(ゼロエミッションではなく,ローエミッションなのです。少なくとも音に関しては。)つまり,HV/EVの音の問題は,以前から指摘され続けている,手がかりとなる自動車走行音が他の音にマスクされることによって発生する問題のバリエーションであるとも言えるのです。
ですので,低騒音車の走行音をマスクしてしまうような高騒音を発する自動車の走行を規制するなど,静かな音環境を整備することが,視覚障害者にとっても,道路沿線住民にとっても政治的に正しい解決策であると考えられます。
「学校の近くで子供も多いのに,あんな大きな音の車が通るなんて困るわ」
なんている考えが社会に浸透するといいですね。
ただし,このような静かな音環境の実現は一朝一夕にできるものではありません。短中期的な解決策の一つとして,接近報知音(警報音)の利用も考えられるべきでしょう。次回は,その音のあり方について考えます。
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私たちの研究グループでは,接近報知音のデザインについての音響学的検討を実施中です。ご意見ご感想をお待ち しています。
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