2010-01-30

第3回 HV/EVの接近通報音はどのようにデザインされるべきか? ~シリーズ:"静かすぎる"HV/EVに付加する音の研究~

ハイブリッ ド車(HV)や電気自動車(EV)の走行音が静かであるために,歩行者が気づきにくいという問題が指摘され,接近報知音を設置することが議論されています。この問題について,私の研究スタンスに関して何回かに分けてこのblogでまとめていきます。
第1回 HV/EVが静かなことって悪いこと?
第2回 エンジン音など設置しないとHV/EVは本当に危険なのか?


前回指摘したように,長期的な解決としては”静かな”車の音も聴きやすい静かな環境の創造が重要であると考えています。その上で,短中期的解決策のひとつとして接近報知音(車両接近通報音)の利用が考えられるべきでしょう。

接近報知音(車両接近通報音)は,「これまでにエンジン音等によってでしか車の存在を認識できなかった場面」の支援としてのみ用いられるべきで,
・環境音に埋もれない
・気づかれやすい
・イヤじゃない(不快じゃない)
などの特性が期待されると考えられます。

そのための音質や音量の検討が必要であり,同時にその知見に基づいた魅力ある音作を創造する作業も不可欠です。前者は,制限的アプローチであり,後者は創造的アプローチとでも言えるでしょうか。実証実験等に基づく知見を積み重ね,多くの知恵と感性と技術を集める作業が求められると思います。


そんな中,昨日(2010年1月29日),国土交通省から「ハイブリッド車等の静音性に関する対策のガイドライン」が発表されました。
ガイドラインでは,音の種類についての明確な指定や音量についての数値的な規定はありません。
・車両の発進から車速が時速20kmに至までの速度域及び後退時おいて,自動で発音
・発音される音は,車両の走行状態を想起させる連続音
とされています。

また,以下の5種類の音やこの条件に類似する音は不適当と記されています。
(1)サイレン、チャイム、ベル、メロディ音
(2)クラクションの音
(3)鳴き声など動物や昆虫が発する音
(4)波、風、川の流れなどの自然現象の音
(5)その他常識的に車両から発せられることが想定できない音

個人的には,クラクションを対人使用に適した音質に改良したソフトクラクションのような解決が現実的かと考えていましたので,この(2)をどう解釈するかは一つの課題です。


また,先述の通り,音量についての数値的な規定はありません。

ガイドラインの中では,音量については
内燃機関を原動機とする車両が時速20kmで走行する際に発する走行音の大きさを超えない程度
との記述がありますが,これは車種や条件によってずいぶんバラツキがあるはずなので,限りなく”規定なし”近いに近いと言えるのではないでしょうか。
音量等については,より詳細な検討を行った後に別途示す
と記されており,十分な検証実験データに基づいて導かれたものではないことを物語っています。


音量については我々の研究グループでもシミュレーション実験を実施中なので,是非とも参考にしてもらいたい ※。そして,騒音問題とのバランスや,周りを静かにするという解決など,広角的に検討していきたいと考えています。


※ 実験方法の詳細は発表論文をご覧頂きたい。(別刷りをご希望の方はご連絡ください。お送りいたします。)また,3月の音響学会でもこの問題に関連したスペシャルセッションが設定されており,私も講演する予定です。


追記:公開後に,音響学会へのリンクを貼り忘れていたので追加修正しました。(1/30 21:38)

2010-01-27

第2回 エンジン音などを設置しないとHV/EVは本当に危険なのか? ~シリーズ:"静かすぎる"HV/EVに付加する音の研究~

ハイブリッ ド車(HV)や電気自動車(EV)の走行音が静かであるために,歩行者が気づきにくいという問題が指摘され,接近報知音を設置することが議論されています。この問題について,私の研究スタンスに関して何回かに分けてこのblogでまとめていきます。
第1回はこちら>>> 第1回 HV/EVが静かなことって悪いこと?


走行音が環境騒音と比べてあまりにも静かであれば,走行音を車の存在や接近を知るための情報源として使いにくくなります。これは視覚障害者にとっては「自動車の位置がわからない」「道路を横断するタイミングがわからない」などを意味することになるため,歩行時の危険性が増すことが強く危惧されているのも事実です。そのための対策が不可欠であることは議論の余地はないでしょう。

そこで,「音が小さい」ことによって生じた問題なのだから,「代わりに別の音を出そう」と考えるのは,ある意味,自然な発想の流れでです。この「接近報知音(警報音)によって視覚障害者の安全を確保しよう」という考え方は,一見すると正しいように見えます。

しかし果たして?

私の共同研究者である永幡幸司(福島大准教授)は,
  • 大型車の音は普通自動車の音を消してしまう
  • 真上の高速道路の音が下の大通りの音と混ざり合い横断のタイミングがわからない
  • 工事等の大きな音が手がかりとなる自動車走行音をマスクしてしまう
等の事例を引用した上で

自動車走行音が,他の音にマスクされる時に問題が発生することが,ハイブリッド車が登場する以前から,指摘されてきている
(永幡幸司, "音環境の政治的正しさをめぐって," 日本音響学会 騒音・振動研究会資料, N-2008-50, 2008)

つまり,「走行音が聞こえなくて困る」という問題はHV/EVの出現以前から存在したと指摘しています。

また,HV/EVに音を付加するとした場合,「従来の自動車と同程度の音量」で音を付加することが考えられます。(「同程度」をどのように定義するのかという大問題があるのですが,それは,次回以降で。)その場合,道路沿線の騒音環境は従来と変わらないか,付加する音によっては悪くなる可能性もあります。

騒音を大幅に低減できる技術が実用化されているにも関わらず,その性能を十分に引き出せないような政策を行うことは,道路沿線住民に我慢を強いることを意味し,政治的に正しくない
(同上)

つまり,安易な音の設置は避けるべきでしょう。

また,HV/EVとは言え,全くの無音ではありません。(ゼロエミッションではなく,ローエミッションなのです。少なくとも音に関しては。)つまり,HV/EVの音の問題は,以前から指摘され続けている,手がかりとなる自動車走行音が他の音にマスクされることによって発生する問題のバリエーションであるとも言えるのです。

ですので,低騒音車の走行音をマスクしてしまうような高騒音を発する自動車の走行を規制するなど,静かな音環境を整備することが,視覚障害者にとっても,道路沿線住民にとっても政治的に正しい解決策であると考えられます。

「学校の近くで子供も多いのに,あんな大きな音の車が通るなんて困るわ」
なんている考えが社会に浸透するといいですね。


ただし,このような静かな音環境の実現は一朝一夕にできるものではありません。短中期的な解決策の一つとして,接近報知音(警報音)の利用も考えられるべきでしょう。次回は,その音のあり方について考えます。


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私たちの研究グループでは,接近報知音のデザインについての音響学的検討を実施中です。ご意見ご感想をお待ち しています。

第1回 HV/EVが静かなことって悪いこと? 〜シリーズ:"静かすぎる"HV/EVに付加する音の研究〜

ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)の走行音が静かであるために,歩行者が気づきにくいという問題が指摘され,接近報知音を設置することが議論されています。この問題について,私の研究スタンスに関して何回かに分けてこのblogでまとめていきます。

HVやEVは,従来のエンジン車と比べて,非常に低騒音であるという特徴があります。低騒音であるが故に,歩行者が気づきにくく危険であるという指摘があります。駐車場を考え事をしながら歩いていたら,「気づいたら後ろにプリウスが迫っていた!」という経験は私にもあります。(これまでに接触するような事故には出会ってませんが。)

このような事故を未然に防ぐために,「接近報知音(警告音)*1」を設置する事が議論されています。音がしないのなら,何らかの音を鳴らしてあげればいいのでは?という発想です。
*1 名称についてはこちらのエントリーを参照ください


一方,自動車騒音という観点からこのHV/EVの低騒音性をみてみましょう。

これまで,環境問題意識の高まりから,騒音対策の一環として騒音規制法によって自動車騒音が規制され,自動車の低騒音技術に伴って順次強化されてきました。現在の乗用車は相当静かです。道路に出ると「ブーン」という音を立てて車が走っているイメージがあると思いますが,発進時に目立った音を立てているのはバス,トラック,軽自動車がほとんどです。今度,試しにちょっと気にして聴いてみてください。さまざまな低騒音技術によって,車はとても静かになっています。そこに登場したのが,もっと静かなHV/EVなのです。

このような騒音政策の流れを考えると,HV/EVのような低騒音車の出現は望ましいことなのです。静かなことは大歓迎なのです。そこにわざわざ音を付加しようという議論なのですから,否定的,拒否的意見が出てきても当然でしょう。blogの記述やtwitterでの反響(*2)などを通して社会の反応を観察しても,「なぜ静かな車から音を出してわざわざ騒音を作るのか」「めいめいの音楽を流す車が何台も来たらどうなるの?」などなどの指摘が多く見られます。
*2「ゴッドファーザーのテーマでいいじゃん」というような皮肉も. . .

一方で,あまりに静かであれば歩行に支障をきたす人々がいるのも事実です。また,純粋に「音で解決できるのなら,それを期待」という人も多いようです。次回は,このような問題について考えてみます。

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私たちの研究グループでは,接近報知音のデザインについての音響学的検討を実施中です。ご意見ご感想をお待ちしています。

2010-01-26

twitterで国会の"音環境"が変わる!?

Twitterを積極的に利用している一部の国会議員の間で,本会議や委員会で「つぶやく」かどうかが話題になっているようです。(例えばこれとかこれとか。)

質疑に集中すべき,ヤジを飛ばすよりは建設的でいいのでは,などいろんな意見があるようですが,いち音響学者の興味としては「twitterによる音環境の変化」が見られるかも知れない!というところ。

ニュース番組で紹介される会議場はいつもヤジで盛り上がっているので,静かな国会の風景はちょっと想像し難いですね。

案外,あの下品な(失礼)ヤジは,日本の国会の大切な音風景なのかも知れません。原風景として守るかどうかは別ですが。

2010-01-24

イチゴ狩り!

大村市の「おおむら夢ファーム シュシュ」へイチゴ狩りに行ってきました。





娘は「花より団子」ならぬ「苺より花」状態で,そこここの花を集めて楽しんでました。持参のカバンに花をつめて持って帰って,コップに入れて眺めて喜んでます。女の子だねー。

ちなみに,シュシュのホームーページでは前日までに予約,となっていますが,当日でも大丈夫な場合もあるようです。今日は午前中に電話で問い合わせたところOKでした。

2010-01-15

英語で”静かな車につける音”は何と呼ぶ?

走行音が静かで歩行者が気付きにくいと指摘されているハイブリッド車や電気自動車などについて,エンジン音に似た音を出す装置の設置が検討されています。この「音」について研究をはじめているのですが,Internoise2010への発表申込をするにあたって,その英語表現を調べる必要がありましたので,こちらにまとめて記しておきます。

調査の主眼は
  • 「走行音が静かで歩行者が気付きにくいと指摘されているハイブリッド車や電気自動車」
  • 「音を出す装置」
をそれぞれどんな言葉で表現するか?

(1) Committee on Automobile and Pedestrian Safety/Quiet Cars ; National Federation of the Blind(全米盲人連合の委員会)
"Quiet Cars"というのが委員会名になってます。その装置についての言及はありませんが,音については "inoffensive sound"(害にならない音)という表現がみられます。「"be designed to emit an inoffensive sound"(害にならない音を出力するように設計する)ことを強く望む,などの表現です。

(2) Quiet Vehicles Public Policy; Vision Australia(オーストラリアの視覚障害者団体によるステートメント)
こちらは"Quiet Vehicles"ですね。音を出す装置については,"noise-making devices"(騒音発生装置)と表現されています。ちなみに,ここでは解決策のひとつとしてuse of appropriate noise-making device(適切な音発生装置の利用)が指摘され,ドライバーへの警報システムの利用なども提案されています。盲ろう者への配慮も指摘されており,現在オーストラリアで使われているaudio-tactile traffic signals(聴覚触覚信号機?)の活用について言及されてます。どのような信号機なのでしょう。ご存知の方,ご一報いただけると嬉しいです。

(3) SAE(米国自動車技術会)に掲載されているGoodesらの論文
こちらも"Quiet Vehicles"です。音を出す装置については,"External Noise Emitting System"(騒音発生装置)と表現されてます。

(4) HFES News; Human Factors and Ergonomics Society
こちらでも"Quiet Vehicles"です。音に関する名付けはしていない表現なのですが,Nyesteらの論文の紹介や,NHTSA (National Highway Traffic Safety Administration)とSAEでの検討の流れなどが簡潔にまとめられています。ちょっと古い(2008年11月)ですが。

(5) 国際特許
その名もEXTERNAL SOUND GENERATING SYSTEM. あえて訳すなら,外付型音発生装置といったところでしょうか。車については,こちらでも"Quiet Vehicles"という表現があります。

(6) その他
GMのVoltのスペシャルサイトでは,"Safe Sound Alert"(あえて訳すなら,安全警告音?)を開発すると発表されてます。Lotusが開発している音発生装置は "Safe & Sound Hybrid" と名付けられています。こんな紹介動画もあります。


ちなみに国交省の検討委員会は「ハイブリッド車等の静音性に関する対策検討委員会」という名前。ここで公開されている交通安全研究所やトヨタの資料には,「車両接近通報装置」「接近通報音」という言葉がみられます。

2010-01-08

今朝,今年初のバス通勤でした。
バスの車内広告放送が入れ替わってました。

いつも同じ宣伝と景色の組み合せだったところが,聴こえてくるものが変わると新鮮な気分です。

2010-01-01

年越しの音

2010年の年越しは,神戸の実家で迎えました。

神戸では神戸港に停泊する船の,新年を祝う汽笛が聴こえます。
0時を過ぎたところでベランダに出て,冷たい空気を浴びながら汽笛を聴くと
「あー年越しだ」と実感します。

長崎の家も港が近いのできっと聴こえると思うのですが,
未だ長崎で年を越したことがないので分かりません。